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ハインラインかく語りき [小説:SF]

『メトセラの子ら』はなかなか面白かった。

極端な状況設定によって、抽象度の高い問いを自然に発することのできる点がSFの長所だよなあ、と再認識させられる。

また、内容に劣らず面白いのが解説だ。
「未来を発見した男、ハインライン」というタイトルのエッセイで、この中に出てくるハインラインの言葉が実にすてきなのだ。

さて、なにはともあれ、私は長いあいだSFを読んできました。だから、ほとんどのみなさんと同じような経験をしてきたはずです。両親は許さないし、友達は“そんなつまらないものを”読んでいるのかという妙な目つきで見る。われわれここにいるファンは気違い同然、馬鹿もいいところです。変な機械やとんでもない生き物が表紙になっている雑誌を読むなんてとね。うっかり部屋の中にそんな雑誌をほうり出しておくと、SFファンでない友達に見られたら最後、変な目で見られ、われわれは頭がおかしいことにされてしまったものです。

社会の習慣を自然の法則と信じていること-ほとんどの人にSFを読ませようとするとき、みなさんがぶつかる態度はそれです。かれがみなさんを気違いだと考える理由は、そこにあります。社会の習慣は自然の法則であり、変わりもせず、変えられないものと、かれらが信じているからなのです。かれらは、変化というものがあることを信じていないのです。//(中略)//現在、われわれのまわりにあるいかなる習慣、技術、制度、信仰、社会組織はみな、変わり、過ぎ去っていきます。//さて、あなたがこういうことをふつうの人に話し、物事というものは変わるものだといわれる。かれはそれを認めるでしょう…そう、はっきり認めますとも…ですが、かれはそれを信じていません、信じるもんですか。ただ心のうわっつらでそういってるだけです。かれは“進歩”なるものは信じています。しかし、彼が生きているまわりの文明やその工学技術の持つ根本的性質が実際に変化することなどは信じたりするものですか!

ああ、ぐっとくる。
1941年である。
黎明期を生きる少数派の心意気!
何よりハインラインはSFを、SFファンを愛している。
そのことに胸打たれる。

私は人間というものに絶大な信頼を寄せている。これは過去の記録に基づいていうのだ。人間は意地悪で、強情で、つむじ曲がりで、非論理的で、感情的で-そして、とてつもなくしぶとい生き物なのだ。宗教家は人間の精神的な救済を信じている。ヒューマニストは努力を通しての人間の完全性への到達を信じている。だが、私の観点は、この二つの立場とは別のものだ。私の人類への信頼は、その過去の歴史の上に築かれており、そしてまた、彼らのいわゆる『美徳』とおなじ程度に、その『悪徳』の上に築かれている。いったん事あるとき、人類の生存にとって、喧嘩早さやがめつさが、利他主義とおなじぐらい有用になり、頑固さが柔和な聞きわけのよさよりも優れた特性になることもあるだろう。でなければ、こうした『悪徳』は、少なくとも五十万年昔に、その持ち主たちの夭折と共に死に絶えたにちがいない。//私は、不完全でかわいげのない、あるがままの人間に、変わらぬ深い信頼を寄せている-そして、彼の潜在能力にはそれ以上の信頼を。いかに事態が辛いものになろうと、人間はそれに対処してゆくだろう。いたって非論理的な課程で、彼はその解法を見いだす。だが、つねにその解法は成功するのだ

ハインライン節全開である。
正直、私は彼の思想にかならずしも賛成はできない。
しかし、彼の創り出すこの上なく活力あふれる世界の中で、こうした思想の魅力を味わうことになんの抵抗もない。

最後に、私のいちばん好きな言葉を。

SFを読む人がみな科学をよく知っているSFマニアとは限らない。娯楽のために書きます。一杯のビールを飲む金を節約して、私の小説を買ってくださるのだから、喜んでもらえるだけの内容じゃなくてはいけないと思う

素敵だぜ。


メトセラの子ら (ハヤカワ文庫 SF 181)

メトセラの子ら (ハヤカワ文庫 SF 181)

  • 作者: ロバート A.ハインライン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1976/01
  • メディア: 文庫



夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

  • 作者: ロバート・A・ハインライン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1979/05
  • メディア: 文庫



月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 207)

月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 207)

  • 作者: ロバート A.ハインライン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1976/10
  • メディア: 文庫



宇宙の戦士 (ハヤカワ文庫 SF (230))

宇宙の戦士 (ハヤカワ文庫 SF (230))

  • 作者: ロバート・A・ハインライン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1979/09
  • メディア: 文庫



異星の客 (創元SF文庫)

異星の客 (創元SF文庫)

  • 作者: R.A.ハインライン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1969/02
  • メディア: 文庫



人形つかい (ハヤカワ文庫SF)

人形つかい (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ロバート・A. ハインライン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 文庫



蘇るSFマインド:ハインライン『メトセラの子ら』 [小説:SF]

近所のブックオフに行ったら、どういう訳だか大量のディックとハインラインが105円コーナーに陳列されている。
「もう長いことまともにSFとか読んでないなあ」と思う。
一瞬だけ迷ったが、結局30冊ほど買い込んだ。

アシモフ、クラーク、ハインライン、シェクリィ、スタージョン、ブラッドベリ…
正直、内容はほとんど覚えていない。中学生くらいであったろうか。

ヴォネガットに行き当たったあたりから、「SFSFしたSF」を読まなくなったような気がする。
もっと前かもしれない。

そこははっきりした情景が浮かばないにもかかわらず、やはりひとつの原風景である気がする。
何かこう、やっぱりわくわくするのだ。
ハルヒが好きなのも、谷川流のあのSFマインドに反応してる部分はあるな。
ファンタジーじゃなくてSFマインド。

で、ひさしぶりに読み出したハインライン。
びっくりするほど違和感がない。
50年前の本なのに…しかも本来いちばん古びがちなジャンルなのに…

「じゃあ…あなたは、どんな行動に出ることに賛成なさるの?」// 「ぼく?なんにもないよ。メアリイ、ぼくが過去二世紀ほどのあいだに学んだことがすこしでもあるとすれば、それはこうだ。こういったことは、いずれとにかく通り過ぎてゆくってことさ戦争も不景気も、指導者も誓約も…みんな通り過ぎてゆくんだ。要は、それを生き抜いてゆくことだね」// メアリイは、考えこんだような顔をしてうなずいた。// 「あなたのおっしゃるとおりだと思うわ」// かれは立ち上がると背のびをした。// 「そうとも、ぼくの言うとおりさ。人生っていいもんだな、とさとるにも、数百年はかかるものなんだ」


「人生っていいもんだな、とさとるにも、数百年はかかるものなんだ」

うーん、かっこいい。
こういう言葉を聞くためだけでもSFを読む価値があるってものだ。

うれしくて、つい読み終わる前に書いてしまったのだった。。。


メトセラの子ら (ハヤカワ文庫 SF 181)

メトセラの子ら (ハヤカワ文庫 SF 181)

  • 作者: ロバート A.ハインライン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1976/01
  • メディア: 文庫



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