SSブログ

中島義道と哲学という不思議 [本]

中島義道『時間と自由』には各章の後に「読者へのメッセージ」というのがついている。
「ファイヒンガーの虚構主義」のが凄い。

賢明な読者ならすぐお気づきのように、私にとってファイヒンガーの「虚構主義」などどうでもよいのである。そのどこに理論的欠陥があるか、どこに現代的価値があるかなどはどうでもよい。哲学理論の価値、その重みは「正しいか否か」ではない。哲学史を繙けば、そこは好き放題のことを語っているまさに『阿呆の画廊』である。どんな自信に溢れた議論でもその正反対の議論を見つけることはごく簡単である。といって、すべてが相対的であると涼しい顔で居直ることのできる人は、-はっきり言っておく-哲学とは無縁の人種である。では、「正しさ」でないのだとしたら、何がある哲学理論の真価を決めるのであろうか。それは、一言で言えば「実感」に基づいた力強くかつ精緻な言語表現ではないだろうか。「これだけは言わねば」という悲壮なまでの決意が感じられしかも論理的に緻密な言語のみが、哲学の言語として価値をもつのだ。//こうした観点から、すべてが<虚構>であると語るファイヒンガーは世界に対するある切実な実感を伝えたかったのだ、と考えたい。たぶん彼は端的な実感をもって、眼前の机を窓の外の木々をその果ての天球を自分の身体を<虚構>と感じたのである。それはどんな感じなのだろうか。どうすれば私は彼の実感に迫ることができるのだろうか。私の興味はこれに尽きる。もしある哲学論文がこうした実感を削ぎ落としてファイヒンガーの「虚構主義」を論じているとすれば、何をしているかわからないものである。

熱い。熱いよ義道さん!
困ったなあ。
私はこういうのに弱いのである。
好きなのである。
しかし、私は哲学者と科学者の違いはまさにここにあると思っている。哲学者はやはり「生き方」と言葉が一致していなければならないのだ。それは最低の基準しかも最も重要な基準である。ソクラテスがもし逃亡していたら、彼はそれまで語ってきたことすべてをその一つの行為によって裏切ることになったであろう。哲学者は常に道徳的に行為せよ、と言っているのではない。むしろ私の言いたいことは逆である。「定言命法」を優れた道徳原理として認めても、現に自分がそれに従いえないならそこで真剣に悩むべきだと思うのである。そして、以後決して「定言命法」について自分の実感を無視して安易に発言してはならないということである。もちろん、こうした青臭い議論などうんざりだという御仁も多いことであろう。哲学は科学とまったく変わらないと信じている人も少なくない。現代はソクラテスの時代ではないのだから…

哲学者じゃなくてよかった…
いや、よくはないんだが。

哲学って謎だ。
どうもいまいち学問という枠に収まらないものがあるのは確かだ。
収めようとしてる人も多いんだろうけど。

でも、やっぱ魅力的なんだよなあ。。。


時間と自由―カント解釈の冒険 (講談社学術文庫)

時間と自由―カント解釈の冒険 (講談社学術文庫)

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1999/09
  • メディア: 文庫



哲学の教科書 (講談社学術文庫)

哲学の教科書 (講談社学術文庫)

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2001/04
  • メディア: 文庫



「哲学実技」のすすめ―そして誰もいなくなった・・・ (角川oneテーマ21 (C-1))

「哲学実技」のすすめ―そして誰もいなくなった・・・ (角川oneテーマ21 (C-1))

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2000/12/01
  • メディア: 新書



カントの読み方 (ちくま新書)

カントの読み方 (ちくま新書)

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/09
  • メディア: 新書



人生、しょせん気晴らし

人生、しょせん気晴らし

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/04
  • メディア: 単行本



どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか? (角川文庫)

どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか? (角川文庫)

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/11/22
  • メディア: 文庫



ひとを“嫌う”ということ (角川文庫)

ひとを“嫌う”ということ (角川文庫)

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2003/08
  • メディア: 文庫



人生に生きる価値はない

人生に生きる価値はない

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/02
  • メディア: 単行本



私の嫌いな10の言葉 (新潮文庫)

私の嫌いな10の言葉 (新潮文庫)

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/02
  • メディア: 文庫



人生を「半分」降りる―哲学的生き方のすすめ (ちくま文庫)

人生を「半分」降りる―哲学的生き方のすすめ (ちくま文庫)

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/01/09
  • メディア: 文庫



子どものための哲学対話―人間は遊ぶために生きている!

子どものための哲学対話―人間は遊ぶために生きている!

  • 作者: 永井 均
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1997/07
  • メディア: 単行本



<子ども>のための哲学 講談社現代新書―ジュネス

<子ども>のための哲学 講談社現代新書―ジュネス

  • 作者: 永井 均
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/05/20
  • メディア: 新書



マンガは哲学する (岩波現代文庫)

マンガは哲学する (岩波現代文庫)

  • 作者: 永井 均
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/04/16
  • メディア: 文庫



翔太と猫のインサイトの夏休み―哲学的諸問題へのいざない (ちくま学芸文庫)

翔太と猫のインサイトの夏休み―哲学的諸問題へのいざない (ちくま学芸文庫)

  • 作者: 永井 均
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/08
  • メディア: 文庫



「魂」に対する態度

「魂」に対する態度

  • 作者: 永井 均
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 1991/02
  • メディア: -



転校生とブラック・ジャック―独在性をめぐるセミナー (双書・現代の哲学)

転校生とブラック・ジャック―独在性をめぐるセミナー (双書・現代の哲学)

  • 作者: 永井 均
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2001/06
  • メディア: 単行本




nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 1

コメント 2

ムネタロウ

暦さん、はじめまして!

すてきな世界に触れさせていただきました。
哲学って本当に興味深い学問です。

ご参考にあげていただいております中島義道氏の
著作も、ぜひ読んでみようと思います。


by ムネタロウ (2009-07-30 00:09) 

暦

ムネタロウさん、初めまして。
コメントありがとうございます。

『時間と自由』はちょっと専門的すぎるかもしれませんが…

「哲学研究」とは違った哲学自体を追求している方の中では、永井均さんもいいと思います。

参考書籍に追加しておきますね。
by (2009-07-30 12:53) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。