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ラノベの本懐とは:木村航『ぺとぺとさん』に寄せて [ライトノベル]

私にとって木村航は『ぴよぴよキングダム』の作者である。
その『ぴよぴよ』で印象的だったのは、ヒロインあかりの抜群に凛々しい佇まいだ。

いつもキリキリとんがってて、誰にも媚びない
哀れまれるのが大嫌いで、自分の道を切り開くのは自分だ、と心に銘を刻んでいる

クラクラするほど魅力的だった。

『ぺとぺとさん』でかっこいいのは「妖怪れろれろ」こと赤沢だ。

「戦うためです」// 掘り当てた虫をバケツに入れながら、赤沢は答える。// 「生きていくには食べていかなくちゃいけません。そうじゃない特定種族もいますけど、私たちは違います。そもそも…」口を歪めた。「れろれろは、いまのところ特定種族でさえないんですからね」// むろん明日香は知っていた。かける言葉も見つけられなかった。// 「戦わないと生きていけません」赤沢が言った。「保護を受けられないなら味方を作るしかないし、正当な要求を突きつけて、間違ったことや理屈に合わない点は変えていかなければならない。先生、私が学校に通うのは、人脈を、味方を作るためです」

「先生」赤沢が言った。「私たちの味方になってくださいませんか」


生きるために戦う。
痛々しく、でもとても清々しい。

しかーし、この赤沢は端役も端役なのだ。
今後の展開に含みを持たせつつも、今のところちいさなエピソードに過ぎない。

そして残りの登場人物は、ほとんど「他人の善意に無防備に賭けてしまえる人たち」である。

それが悪い、と言っているのではない。
というか、そういうファンタジーは別に嫌いではない。
むしろ残酷さを露骨に差し出すことで、「現実」をわかったような顔をしている連中のほうがよっぽど嫌だ。

しかし、問題はそのファンタジーがファンタジーとして機能しているか、ということである。
そして、どうも私にはそれがうまくいっていないように思えるのだ。

いや、うまいのである。
面白く読める。面白かった。

「萌え要素」のちりばめ具合も、まあちょっとあざといかな、と思う部分はあれど、堂に入ったものである。
(個人的にはぬりちゃんがいい)

しかし、「うまい」と思われるのは、やっぱりうまくないのである。

私には、作者があんまり書きたくないものを、その技量ゆえに見事にこなしてしまった、という印象を受けるのだ。
だから「いい」より先に「うまいなあ」と感じてしまうのである。

まあ、はっきり言おう。
この作品は「ウケ」を狙って書かれている。
そのこと自体は当たり前だ。職業作家で「ウケ」を狙わない人はいまい。
ただ、それはおそらく作者にとって、ややラインを超えたものだったのではないか。

おそらく、作者は誠実すぎるのだと思う。

狙いに対して誠実である。だから、ちゃんと「よくできたもの」を書いた。
自分に対して誠実である。だから、自分を騙しきることができない。「甘いファンタジー」に開き直れない。
赤沢がその象徴だが、妖怪と人間の摩擦(それは差別という現実の社会問題にリンクする)をテーマとして掲げてしまう。
掲げておきながら、それを十分に主題化できず、最後は個人と個人の間の心の問題に行ってしまう。

私が『ドルイドさん』のような作品が好きなのは、作者が本当に好きで書いてるのがわかるからだ。
自ら描き出す世界を、登場人物たちを、心から慈しんでいるのがわかるからだ。
そして、それこそが私がライトノベルの一番美しいと思う部分なのだ。
そこにはしばしば厚顔な「文学」「芸術」が取りこぼしてきたものがある。

作者はこの作品をまだ十分に愛し切れていない。
ライトノベルとして、これは看過できない傷である。

とはいえ、私の見るところ、作者ははじめからこの作品を「小手試し」と考えているフシがある。
続編を書ける位に好評を得られる自信があるのだ。腕があるから。
あえて、無理にチャレンジして、今後じっくり回収しようと言う感じ。

実際、このあとには続編が続いている。
「おお、こう来たか。いや参りました!」ということになることを期待して読むつもり。

木村航はまだまだこんなものではないぞ、と言いたいのだ。

ぺとぺとさん (ファミ通文庫)

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  • 作者: 木村 航
  • 出版社/メーカー: エンターブレイン
  • 発売日: 2004/02
  • メディア: 文庫



ぴよぴよキングダム (MF文庫J)

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  • 作者: 木村 航
  • 出版社/メーカー: メディアファクトリー
  • 発売日: 2004/10
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ぴよぴよキングダム〈2〉ときのしおり (MF文庫J)

ぴよぴよキングダム〈2〉ときのしおり (MF文庫J)

  • 作者: 木村 航
  • 出版社/メーカー: メディアファクトリー
  • 発売日: 2005/01
  • メディア: 文庫



ぴよぴよキングダム〈3〉あかりの国のあかり (MF文庫J)

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  • 作者: 木村 航
  • 出版社/メーカー: メディアファクトリー
  • 発売日: 2005/09
  • メディア: 文庫



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